フィラリア予防について①

犬のフィラリア症

毎年春頃から動物病院ではフィラリア予防薬を勧められることが多いかと思いますが、実際にフィラリアとは何か、どのような病気なのかについてはざっくりと

『蚊から感染する寄生虫の病気』

くらいで考えている方が多いのではないでしょうか?

特にそれで間違いではないのですが、予防が普及してきたためか最近は
「外に出さないから予防はしてない」
「感染したなら治療すればいい」

という方もちらほらいます

なぜ動物病院ではフィラリア予防をすすめるのか?
それは

  • 完全な予防をしていればフィラリア症100%防げる病気である
  • フィラリア成虫が感染している場合、突然死することがある
  • 慢性フィラリア症の完全な治療には時間がかかる
  • フィラリア症による心臓・肺へのダメージは完全には回復しない
  • 急性フィラリア症を生じた場合は手術をしなければ助からず、生存退院率も現在では低い(約50%ほど)
  • そもそも手術できる病院が減ってきている

などが理由としてあげられるかと思います
ここからは各理由について1つづつ解説していきます。

完全な予防をしていれば100%防げる

あまり獣医療において100%という言葉は使われないのですが、理論上フィラリア予防薬をそれぞれの地域に合わせて毎月投与(通年注射)すればフィラリア症は起こりえません。

それはフィラリア虫体の生活環に理由があります。
細かい生活環が気になる方はリンク先をご一読下さい。

簡単に言うとフィラリア虫体は犬に感染してから2~3ヵ月程度は幼虫期であり、フィラリア予防薬はこの幼虫を全て駆虫して成虫になるのを防ぐお薬です。

なので、一般にフィラリア予防薬と言われるものは正確にはフィラリア症予防薬であり、フィラリア幼虫駆虫薬です。

また、飲ませると1ヶ月間効果が続くわけではなく、飲ませた時点で感染している幼虫を駆虫する効果であるため、1週間後にはまた幼虫が感染しているかもしれません。

つまり、フィラリア予防とは毎月感染している可能性のあるフィラリア幼虫を定期駆虫し、成虫になるのを防いでフィラリア症の発症を防ぐ予防方法です。

ちなみにフィラリア幼虫の感染で何らかの症状を起こすことはほとんどなく、フィラリア予防薬はフィラリア成虫に対して駆虫効果はありません。

フィラリア成虫が感染している場合、突然死することがある

フィラリアの成虫は通常は肺動脈という部分に寄生します。
肺動脈とは心臓から肺へ血液を送る血管です。
フィラリアの厄介な部分は消化管の寄生虫などと違い、出口のない血管に寄生するという点です。

肺動脈に寄生するため、右心不全を引き起こし、その影響から失神を繰り返してある日突然なくなることもあります。

また、急性フィラリア症を引き起こした場合、重度の循環不全に陥り急性経過を辿るため、飼い主が気づかぬうちに発症し、死亡するということもあります。

右心不全と急性フィラリア症は共に運動や寒い気温で悪化しやすいため
・走り回ってると思ったらいつの間にか倒れていた
・冬場に朝起きたら冷たくなって亡くなっていた
などで突然死することがあります

慢性フィラリア症の完全な治療には時間がかかる

慢性フィラリア症とはフィラリア成虫が寄生することで生じる様々な症状を指します

  • 腹水貯留
  • 発咳(せき込む)
  • 失神
  • 呼吸困難
  • 元気がない、食欲がない

などの症状がでます。複数合わさることもあれば、一つだけのこともあります。

慢性フィラリア症はどのように治療するのか?

慢性フィラリア症の治療は原因(フィラリア成虫)に対する治療と症状に対する治療を同時に行います。
症状に対する治療は病状により異なるので、原因に対する治療について解説します

フィラリア成虫をどのように対処するか?

以前はイミトサイドというヒ素化合物製剤を注射して駆虫する方法もありましたが、現在日本では発売停止になっているため所持している病院も少なく、ほとんど行われることはない治療法になっています。

また、手術にて血管の中から直接フィラリア虫体を取り出す釣り出し手術は、肺動脈内の虫体を取り出すためにフレキシブルアリゲーター鉗子という特殊な鉗子が必要となります。
しかし現在日本では生産中止になっており、一度壊れるともうできなくなるので、実施できる施設は年々減っています。

先ほど調べたところクラウドファンディングにてシンメディコ株式会社が開発を進めており、そのうち新たに発売されるようになるかもしれません。

2019年現在は地域によりますが、フィラリア予防薬単剤による温存治療またはフィラリア予防薬とドキシサイクリン(及びプレドニゾロン)を併用した緩徐な治療法のどちらかが主体となっています。

それぞれ簡単に説明すると、温存療法はこれ以上寄生数が増えないようにフィラリア予防薬を毎月通年投与する方法、緩徐な治療法は毎週のフィラリア予防薬投与に加えて2種類の薬を投薬することでより早期にフィラリア成虫駆虫を目指すという方法です。

温存療法は数年ほど、緩徐な治療法は半年~1年ほどの時間がかかると言われています。

緩徐な治療法は近年行われるようになってきた方法で、フィラリアと共生関係にあるボルバキアというリケッチア(特殊な細菌)に対して効果のあるドキシサイクリン(テトラサイクリン系)という薬剤を同時に投与することでフィラリア成虫をより早期に駆虫する方法です。

温存療法よりは効果的なのですが、フィラリア予防薬が毎週投与になる、ドキシサイクリンの投与週をちゃんと守るなど費用や通院・投薬の手間が温存療法に比べてひつようとなります。

どちらがいいかは犬と飼い主の状況によりことなるため、かかりつけの動物病院にて相談してみて下さい。

長くなってきたので、続きはフィラリア予防について②

下は4年ほど間に釣り出しをした際にとれたフィラリア虫体の画像です。
水の中にいるそうめんみたいなものがフィラリア虫体です

フィラリア虫体

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