フィラリア予防について②

フィラリア予防について①の続きです

フィラリア症による心臓・肺へのダメージは完全には回復しない

フィラリア成虫により生じた心臓・肺へのダメージは不可逆的なものが多く、投薬により症状の緩和はできても完治は難しい場合が多いです。

慢性フィラリア症の症状は主に

  • 肺動脈内に存在するフィラリア成虫による物理的な血流障害
  • フィラリア成虫に対して起こる肺動脈及び肺実質の反応
  • 死亡したフィラリア成虫により生じる肺動脈塞栓

から生じます。これらの原因が重なった結果、右心不全が徐々に進行するため発咳や腹水、運動不耐性などの症状が生じます。

右心不全の進行していないごく軽度の慢性フィラリア症であれば多くの場合はステロイド等で症状の緩和・治癒が期待できますが、右心不全が既に進行している場合は強心薬や肺動脈拡張薬が必要となります。

強心薬や肺動脈拡張薬は飲ませると心臓が治るわけではなく、失われた心機能を薬で補っている形になるため、既に重度の右心不全を発症している場合は投薬してもあまり改善がみられない場合もあります。

急性フィラリア症を生じた場合は手術をしなければ助からず、生存退院率も現在では低い(約50%ほど)

急性フィラリア症は大静脈症候群、ベナケバ・シンドロームなどと呼ばれます。

急性フィラリア症は本来肺動脈に寄生しているフィラリア虫体が心臓の右房と右室に移動して生じる急性の循環不全です。
「急にぐったりして動かず、血尿を始めた」
という主訴で来院されることが多いです。

急性フィラリア症が生じる原因ははっきりとわかってはいませんが、冬場の寒さや急な運動負荷などで生じることが多いように感じます。
僕自身の経験では4件が冬、1件が夏でした。

治療は点滴などによる循環不全への対応と、心臓内のフィラリア成虫を専用の鉗子や異物鉗子、フィラリアブラシと呼ばれるものなどを用いて首の血管から引っ張り出すフィラリア釣り出し手術が必要となります。

全身状態が悪い状態での全身麻酔下での手術になるため、非常にリスクの高いものとなります。

また、手術を乗り越えた後も右心不全が残るためしばらくは絶対安静が必要となり、手術はうまくいって元気に回復していたのにある日急に突然死するということもあります。

生存退院率は地域や施設・獣医師によって異なりますが、福岡では平均しておよそ50%ほどではないか?と個人的に考えています。

そもそも手術できる病院が減ってきている

この釣り出し手術はやや特殊な手術となり、慣れている獣医師でなければ行うことができません。

現在、フィラリア予防が普及したために急性フィラリア症を生じる犬が依然と比べて非常に少なくなっています。
そのため、都市部と田舎では症例数が大きく異なり、特に都市部では急性フィラリア症が都市伝説かのように言われるほど珍しい疾患となっています。

そのため、手術自体を行ったことがない獣医師も現在は多く、恐らく釣り出し手術を行える病院の方が少ないです。

予防が普及してきた弊害とも言えますが、そもそも予防していれば発症することのない病気なので、皆さんぜひともフィラリア予防はしっかり行いましょう。

ちなみにフィラリアは猫やタヌキなど様々な動物に寄生します。
猫のフィラリア症は潜在的な感染率は多いと言われていますが、実際に目にする機会はほとんどない稀な疾患です。
僕自身はまだ診断したことはありませんが、ノミと同時に予防できる薬もあるので、ついでに予防できるならそれがベストかなと思います。

当院でのフィラリア予防に対する取り組み

ホームケア動物病院では急性フィラリア症の手術は手術可能な施設を紹介させて頂きますが、フィラリア抗原検査・フィラリア予防薬の処方・慢性フィラリア症の治療は対応可能です。

フィラリアに関することで気になることがあればお電話を頂ければと思います。

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