蠅蛆(ハエウジ)症について

イラストの蛆(ウジ)は可愛らしいですが、現実の蛆は非常に気持ち悪いです。

現実の蛆(リンク先閲覧注意)

普通に生活しているとウジを見る機会などめったにありませんが、動物病院では夏になると蛆に寄生されたペットの診察をする機会があります。

当院でもこの夏は2件、太宰府市と粕屋町で蠅蛆症の犬を診察しています。

いずれも外飼いの高齢犬の子です。

そのうち1頭は寄生数が多く、腰背部から肛門周囲の皮膚が広範に侵され、皮下にも多数の蛆がいました。
オーナーと相談した結果生活環境上治療は困難なため安楽死が選択されました。

蠅蛆(ハエウジ)症概論

日本でのペットの蠅蛆症は主に夏に蛆の偶発寄生により生じ、主に体表、皮下に寄生される外部ハエウジ症が問題となる場合が多い。

外部ハエウジ症は以下の要因を持つペットの発症リスクが高い

  • 外飼い
  • 高齢または若齢でグルーミング能力が低い
  • 皮膚病・外傷・褥瘡など体表に問題がある
  • 生活環境の衛生状態が悪い
  • 飼育放棄(ネグレクト)を受けている

近年はペットの高齢化が進み、特に起立困難な高齢犬の褥瘡に寄生されるケースが増えてきている。

また、外飼いの犬は近年減少傾向にあるが、寄生されても飼主の発見が遅れることが多いため多数の蛆寄生を認める場合が多い。

蠅蛆(ハエウジ)症の治療

治療は主に患部を清潔に保ち寄生している蛆を物理的に取り除く。また、二次感染・再感染の予防、可能であれば原因となる疾患の治療が重要である。

①剃毛

まず第一に蛆に寄生されている体表部の剃毛を行う。
剃毛は患部を清潔に保つ、及び体毛に隠れた体表・皮下病変の発見のためにも重要な処置となる。

多数寄生している場合の剃毛にはややコツがいる。

蛆は光から逃げようとする負の走光性を持つため、蛆のいる中心から剃毛を始めると周囲の体毛が生えている場所や皮下の瘻孔、肛門などの天然孔の粘膜部へどんどん逃げて行く。

病変の範囲や場所にもよるが、できるだけ逃げ道をなくすように剃毛を行う。具体的にはは病変部より広範囲に円形に剃毛し、徐々に中心へ向かっていくように刈り込んでいくと多くの蛆を中心に集めて除去し易くなる。

全身に寄生がみられる場合は天然孔付近からスタートして全身を刈り上げる。

また、一部壊死した皮膚などがみられる場合はバリカンの扱いにも注意する。

バリカン等で毛を刈ることが多いが、体表面に穿孔や外傷がある場合はできるだけ蛆を傷つけずに除去することが望ましい。

②病変部の確認と蛆の除去

剃毛を終えたら体表の穿孔部の有無や外傷部の確認を行う。

体表面に蛆が残っていればピンセットなどで丁寧に蛆を取り除く。

蛆の死滅・損傷により生じた体組織や体液が過敏症やアレルギーの原因となり得るため、蛆が憎くても決して雑に扱わずに丁寧に除去することを心掛ける。

また、取り除いた蛆はアルコールや熱湯につけると逃げられにくくなる。

皮膚が穿孔しており、皮下に蛆が侵入している場合はまず見える範囲の蛆をピンセットで取り除き、その後創内をワセリンを塗り込んだり、生理食塩水やリンゲル液で満たすと這い出てくることが多いので、それも丁寧に取り除く。

どうしても物理的に取り除けない蛆はイベルメクチン 200~400㎍/kg 皮下注射が有効だが、死滅した蛆によるアレルギーやフィラリア寄生の有無、MDR1遺伝子変異の可能性などを考慮して決定する。

③蛆除去後の治療

蛆本体を除去したあとは創傷部の状況に応じ治療を行う。

2次感染防止のために抗生剤の使用、ワセリン等による創傷部の保護、1日数回創部の洗浄などを行い、患部をできるだけ衛生的に保つ。

創部からの排液が多い場合は吸収性ドレッシング材の使用や、こまめにガーゼ・包帯などの衛生用品を取り換える。

また、同時に生活環境をできるだけ衛生的に保ち、患者にハエができるだけ寄ってこないように留意する。特に臭いに蠅は寄ってくるためその点に気を付ける。ただし、完全にハエの侵入を防ぐことは困難である場合が多い。

また、原疾患の治療が可能であれば並行して行う。

④蠅蛆症の予後

蠅蛆症の予後は原因となる疾患及び生活環境により左右される。

蠅蛆症は基本的に2次的に生じる疾患であり、蠅蛆症の治療自体はそれほど困難ではない。

しかし蛆の寄生を受けること自体が動物の抵抗力の低下、生活環境の問題を表しており、特に高齢の動物では予後不良と判断されるケースも多い。

若齢の動物では特に子猫の外傷部に寄生されるケースが多い。

この場合治療が遅れなければ予後は良好であり、穿孔創も綺麗に治ることが多い。

ハエウジ症は熱中症・皮膚病(外耳炎)と並ぶ気温が高くなると多くなる夏に多い病気です。

気を付けていても寄生されることはありますが、寄生に気づかず時間が経ち多数寄生された動物は非常に不憫です。

高齢の外飼いのワンちゃんがいる場合は様子を見てご飯をあげるだけでなく、毎日スキンシップを取って病気・怪我の早期発見をしてあげて下さい。

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